片思い世界(2025)
- ラーチャえだまめ
- 5 日前
- 読了時間: 6分

【原題】片思い世界
【監督】土井裕泰
【出演】広瀬すず 杉咲花 清原果耶ほか
【あらすじ】
相楽美咲、片石優花、阿澄さくらの3人は、東京の片隅に建つ古い一軒家で一緒に暮らしている。それぞれ仕事、学校、アルバイトへ毎日出かけていき、帰ってきたら3人で一緒に晩ごはんを食べる。リビングでおしゃべりをして、同じ寝室で眠り、朝になったら一緒に歯磨きをする。家族でも同級生でもない彼女たちだったが、お互いのことを思いあいながら、楽しく気ままな3人だけの日々を過ごしている。もう12年、ある理由によって強い絆で結ばれてきた3人には、それぞれが抱える“片思い”があった……。(映画.COMより)
【感想(ネタバレなし)】

『亀が「キューン」って鳴く優しい世界』
夜勤明けから帰宅し飯を食べて昼寝から目覚めた午後。何気なくTVをつける。「ひるおび」である映画の番宣をしている。「あんまり調べないで見た方がいい」コメンテイターが言ってるのを真に受けてちょっとだけ気になりだす。調べたら自転車で10分圏内にある近所の劇場で上映している。あと15分後じゃないか。まだ間に合う。寝ぼけながら自転車にまたがった……
そこは普段からあまり人がいない劇場で金曜日の昼過ぎもあってか「誰もいない」貸切シネマ状態。非常に快適に見ることが出来まして……どーもどーも生涯片思い宣言、ラーチャえだまめです。本日はそんなコチラ【片思い世界】という映画を拝見させて頂いたのですが
脚本は91年“月曜日の夜9時に街から女性たちを消した”張本人こと「東京ラブストーリー」はじめ数々の名作TVドラマの脚本並びに是枝監督の「怪物」でカンヌ国際映画祭脚本賞受賞、「この脚本家の作品が面白い」と日本中がようやく認知した脚本家坂本裕二氏によるオリジナル脚本。原作頼りな邦画界に一石を投じ続ける最重要人物の一人。そして監督は坂本氏の名をさらに轟かせナウい若者世代にもヒットさせた「花束みたいな恋をした」の土井裕泰監督、いわば世間で言う「最強の再タッグ」。いや実際はそこまで期待はしていなかったんですが、いやーこれはちょっとSNS・レビュー・評論すべてを見ザル聞かザル状態で行ったほうがいい「下調べゼロで観て欲しい」まず少しでも現在進行系で気になっていて劇場に行こうか迷っているならすぐに見に行った方が絶対に得です。アメコミ映画並に賞味期限が非常に早いタイプの映画だと言える。

まぁここではネタバレは一切せず本作の魅力だけをお伝え出来ればなと思っておりますが「朝ドラ三姉妹」という目の保養超えて結膜炎レベルの超売れっ子女優たちが全員「片思い」…??キラキラな恋愛ドラマ、あるいは片思いした相手が同一人物でした的なタイトルのフォントに似合わず所属プロダクション総出の仁義なき奪い合い……なんて思っていたら「やっぱりそうか」。なんとなく「そうだったら面白いな」くらいに思っていたIF展開が見事的中したような、予想通りではありましたがしかし片思い=甘酸っぱい恋愛映画などと少しでも安直な思考回路だった我が脳みそをぶっ叩きたい恋愛を超えた「想い人」の映画、だったんですねー。
血の繋がりはないある運命的な繋がりにより共に暮らす「三姉妹」。ク◯おしゃれな古民家でク◯おしゃれな手料理を長女の広瀬すずから振る舞われるこの世とは思えぬ世界線……同じく“こんな四姉妹はいない”リアルティゼロな「海街diary」で一番下の妹を演じていた広瀬すずも三姉妹の長女役なんですね。女優としてのオーラも今や眩しい限りですが、個人的に「妹」のイメージがずっと色濃くあって、だから会社でOLとして働く姿にいまだに見慣れない(汗)その広瀬より実年齢は1歳上らしい次女の杉咲花はちょっと天然?だけど大学で物理学に没頭するリケジョ。そして一番年下だけど3人の中で一番身長が高い清原果耶はパッと見お姉さんっぽく見えるが中身は天真爛漫で誰にも手に負えない水族館でアルバイト中。いやもう何度でも言うけどこの3人が姉妹とかファンタジー過ぎてリアリティが……でも理由は彼女たちの顔面強度の高さだけではない。いくら生活感丸出しの家具に囲まれて彼女たちが洗濯物を干そうが夕食時の何気ない掛け合いをしようが、3人のやりとりやセリフがどこか“TVドラマ”のそれで、これはTVドラマ出身の制作陣だからなのかもしれないが非常に“作り物の生活”って感じがする。物語も結構“都合がいい”展開だし「現実味」がない。
亀だって「キューン」って鳴く優しい世界。しかし「これは映画だ。」むしろ作り物として認識しながら見る眼の方が正しいのではないか、と次第に思えてくるのです。3人の知られざるヒミツが見えてくると___。

彼女たちの笑顔のウラに隠された真実に胸が締め付けられる。本作は見た目や演出は実に創作らしく楽しく見れる反面、三姉妹が「置かれた状況」に対する反応や姿勢は逆にリアルというか、登場人物が訴えかける“感情”は現実的なんですよね。「大切な人に想いを届ける」これがなんで目の前にいるのにそう簡単にはいかないのだろう。心を通わせる難しさ、そしていかにして相手に伝えるのか。これは映画の中だけの話ではなく誰にでも当てはまるし、だからこそ刺さるテーマだなと思いました。あとは普通どちらか一方だけならわかるが「残された者」双方の感情を同時に描くという、それができるのが本作ならではで面白いですね。地味に少年法の批判までしてるし。そのどれもを丁寧にわかりやすく見せている親切設計なのも嬉しい。
中盤まで誰この「横顔最強べらぼうイケメン」……気づかなかったよ横浜流星〜。陰のある暗い役柄にピタっとハマっていて全然わかりませんでした横浜だけに(ハンマーヘッドから島流しされたい?)しかも今作でピアノの生演奏まで実演。ボクシングやら何やらホントに代役なしで全部自分でやっちゃうってすごいね。ほかにもボソッと喋るイメージのあるとある俳優がハキハキとラジオパーソナリティの役で声のみ出演していて、そちらもエンドクレジットに名前を見てビックリしました。

最後の合唱シーンもとても良い。学生の頃、合唱って地理の教員の結婚報告より興味なかったけど大人になって「みんなで歌うってなんかいいな〜」と思えたというか、臭いセリフで嫌いだった“歌で一つに”はあながち間違いじゃないのかもと。先に言った“想いを届ける”その最たる手段として“歌”があるんだと、今更ながらに教わりました。でその合唱で歌われる本作のテーマソング「声は風」。藤井風じゃありませんどこかの学校で歌われる既存の歌を使ったのかと思ったら、こちらも本作の為に作られたオリジナル曲。作詞経験もある坂本氏が何故か“明井千暁”の偽名を使って描き下ろしたオリジナルソングだったんですねー。脚本もテーマソングもオリジナル。いや素晴らしい。オリジナルだから劇場に見に行きたくなるのです。まだ見ぬ体験をしたいから……。三姉妹の笑顔で見終わった後は非常にほがらかな気分と前向きな気持ちで劇場を退散できるかもしれない、そんな映画です。
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