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ザ・ホエール(2022)


【原題】The Whale

【監督】ダーレン・アロノフスキー

【出演】ブレンダン・フレイザー セイディー・シンク ホン・チャウほか

【あらすじ】

40代のチャーリーはボーイフレンドのアランを亡くして以来、過食と引きこもり生活を続けたせいで健康を損なってしまう。アランの妹で看護師のリズに助けてもらいながら、オンライン授業の講師として生計を立てているが、心不全の症状が悪化しても病院へ行くことを拒否し続けていた。自身の死期が近いことを悟った彼は、8年前にアランと暮らすために家庭を捨ててから疎遠になっていた娘エリーに会いに行くが、彼女は学校生活や家庭に多くの問題を抱えていた。(映画.COMより)


 
【感想(ネタバレなし)】

『人間は「死に際」の人の前では、本当の意味で優しくなれる「素晴らしくも残酷な生き物」だと痛感させられる1本』

 




どーもどーもラーメン店で隣の客がかけたコショウに何故か自分だけ反応してくしゃみが止まりませんでしたラーチャえだまめです。早速ですが本日はもらいコショウならぬ“もらい泣き”してしまうかもしれない??コチラの映画を拝見させて頂きました



【ザ・ホエール】……!!!カムバック我らのブレンダン・フレイザー!!!いやー今年のアカデミーで見事主演男優賞に輝いた俳優ブレンダン・フレイザー。平成世代は彼のこと皆好きなんじゃないか??と叫びたくなるユニバーサルの「ミイラ再生」をただ低予算で“再生”させるだけの企画が気がつけば全世界で特大ヒットをかっ飛ばす“アクションアドベンチャー超大作”として大胆不敵に“生まれ変わって”しまった我々の世代じゃ冒険家は間違いなくインディではなくオコーネル!!そんな「ハムナプトラ」で主演を務めたり、あとは個人的にですが幼少期に「ジャングルジョージ」に大変お世話になりましてね、この映画で一時期“ホントにゴリラは喋るんだ”と間違った教育を施されそうになりましてね、あとは「センターオブジアース」とか「モンキーボーン」とか「原子のマン」とか(やたら原始人役多いな!)甘いマスクに筋肉モリモリの、当時“第二のレオ様”なんて呼ばれていて一躍トップスターの仲間入りを果たしていたのですが



あれー最近全然スクリーンで見ないな、なんて思って彼のことを調べたら2003年頃にハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)の元会長からセクシャルハラスメントを受けたことを告発し、被害者である彼の方が何故かハリウッドから追放され仕事が激減、またその頃鬱病も発症して暴飲暴食を繰り返すようになってしまったらしい。うーんちょっと悲惨過ぎる。その後はドラマなど端役で出演するなどで生計を立てていたようで、私個人としては2019年からやっているDCドラマ「ドゥーム・パトロール」で主人公の一人を演じていると知った時「おっブレンダン・フレイザーだ!」……いやそうなりますよねぇ?そして今回数十年ぶりの主演作にしてハリウッドの壇上に立ち、見事アカデミー賞受賞という快挙を成し遂げたことで映画界への「完全復活」をも宣言したブレンダン・フレイザーが?今ハリウッドで“株価が急上昇中”またまた「A24」スタジオの手により特殊メイクで体重270キロの余命わずかの巨漢男を演じた「ザ・ホエール」。そりゃ当然見に行かないワケわかめですよ!!






 




引きこもりで大学のオンライン講師をして生計を立て、ほぼ毎日ソファーの上で過ごしてる肥満症の男チャーリー。彼は自力で立ち上がることも出来ないくらい太りその結果余命僅かとなっていた。今回はほとんどネタバレなしで語るのは難しいような気もいたしますが、まず率直な感想として初潮吹き……あいや第一声は「辛い」。物語は冒頭から月曜日、火曜日……と1日ずつ進んでいく。これは彼の“最期の一週間”を描いているのか?もうこの時点で「もう先に進まないでくれ」と叫びたくなるくらい














彼の笑顔が素敵すぎるから余計に観ていて「辛い」。





ブレンダン演じるチャーリー。目がとっても綺麗なんです。目が綺麗な人に悪い人なんていない。これは私の持論ですが。彼はずっと苦しんでいるのです。「何故そんなに太ってしまったの?」頼むから早くホスピタってくれと誰もが彼を見てそう思うでしょう。けど彼は「絶対に病院には行かない」と断固として拒絶。そんな身体では生活するのも困難です。チャーリーには世話係のリズという女性がおります。彼女はチャーリーの愛したパートナーの妹らしい。そのパートナーは既に他界している。チャーリーはそのことが原因で心を閉ざし、そして毎日心に涙を浮かべながら“食べたくもない”大量のフードを口にしているのというのです……。



まず「限られた空間」×「限られた登場人物」だけで約2時間の長丁場を「完全に持たせている」鬼才ダーレン・アロノフスキーの匠な才×魅力溢れる登場人物を演じたキャストたちの素晴らしい演技力に脱糞、あいや脱帽であります。そして売れたなぁ〜“マキシーヌ”こと「ストレンジャーシングス」のセイディー・シンクですよ皆さん!?もうね、この子に“ちょっとアンニュイで悪人になり切れない不良”の役やらせたらピカイチなんじゃないかと思うくらい、今作ではスマホぽちぽち世代の“現代っ子”ですが、疎遠となっていた父親から突然連絡が来て……と難しい役どころの娘エリーを演じております。



チャーリーの「人間は素晴らしい」のセリフがこの映画の全てを物語っているんじゃないか。この物語は人生を見失い身を滅ぼした者が、もう元通りに修復などできず何もかもが「手遅れ」な状況で、それでも最後に何か一つだけでも、例えそれがただのエゴだとしてもいい「何かを成し遂げた」という実感が欲しい、そのために海の中でもがき続ける「鯨」のお話なのです。



また今作は拒食症に苦しむ人たちに対する偏見も描かれており、人を見かけで判断することの無意味さ、人は見かけだけではその人がどんな人物なのかは絶対に理解出来ない。大きな身体ではなくその人の「目」を見ろ「目」をと、それを純粋に真っ直ぐと輝くチャーリーの「目」で表現していると思いますねー。 



賛否両論ありそうな「予想を裏切る」あのラスト。でもあそこで幕引きなのがまたいいんだよなー。劇場を出たのが日付が変わるちょっと前だったんですけど、見終わってしばらく最寄りの駅の道じゃなくて海の見える公園……あパシフィコ横浜のウラね、そこ散歩したもんな〜。真っ暗な海をしばらく一人で腰据えて眺めちゃったもんな〜。まるで大きな鯨でも探すかのように……そんな「余韻」が凄すぎる1本、私は全力で推します。







 
【感想(ネタバレ・解説)】




チャーリーは「リズには文才を通して人を導くチカラがある」と絶賛しますが、チャーリーにだって人を惹きつける不思議な魅力の持ち主なのは言うまでもありません。そこが親子なんだよなー。まあいい父親ではないのだけれど。そのチャーリーが妻と幼い娘を捨て愛する人の元へ行ってしまった(全ては自分が犯した罪なのだけれど)ことに対してずっと後悔の念を抱き、拒食症で亡くなった恋人を助けられなかった戒めとして自ら暴飲暴食をする「十字架」を背負う。間違っても彼は「聖人」ではありません。間違いだって犯す。それは彼が人間であるから。



チャーリーという男はきっと他人の痛みや苦しみをその本人以上に感じ取れる「敏感な人」なんじゃないか。そしてそんな誰よりも「痛みがわかる人」に、心の底から悪い人はいないんだなー。思えばこの映画に登場する人物たち、チャーリーを介抱するリズ、カルト教団の青年トーマス、別れた元妻、そして娘のエリー。皆「人の痛みがわかってしまう」敏感な人たちだった。そして人の痛みがわかりすぎることが、時に自分を苦しめる。それはチャーリーに対してもそう。リズにとってチャーリーは家族でなければ親戚でもない、死んだ兄が愛した男など自分にはもう関係がない話。だから介抱なんてする義理は本来ないはず。トーマスは教団のセールスに来ただけ。彼もまたチャーリーとは全く無縁の人間。別れた元妻もとっくに家族は解散してるし、そしてエリーは自分を捨て家族を捨て勝手に愛人作って家を出ていった最低の父親のことなど、むしろ「死んでしまえ」とさえ思っている。



ここで補足として本作に幾度となく登場する「白鯨」と本作との関係性について少し触れさせて下さい。ハーマン・メルヴィルの名作小説「白鯨」を私自身読んだことがないので詳しくは話せないのですが(…なんだよ!)鯨に片足を奪われたエイハブ船長と鯨との戦いを描いた物語というのがチャーリーの口からも語られる通り、つまりエリーは体重270キロのチャーリーに人生を狂わされ恨み続けるまさに「白鯨」のエイハブ船長そのもので、「白鯨」であるチャーリーに復讐することをずっと待ち望んでいたという意味で共通している。



そんなチャーリーと「繋がる」必要のない人間たちが、けど誰もがチャーリーの「痛み」を感じてしまう、わかってしまう。だから彼のことを完全に嫌いになれない、見捨てられないのです。だからリズは衰弱していくチャーリーを最後まで辛いけど見届ける覚悟を決め、トーマスは彼なりのやり方でチャーリーを救おうと躍起になり、元妻は最後にチャーリーの元を訪れ楽しかった頃の思い出を共有し、そしてエリーは……



特に私はリズ、リズに共感しちゃったな〜。食料はチャーリー自らデリバリーとってるものもあるけど「“リズが”チャーリーに食料を与えている」ココ!ここが大きなミソなんですよ!!これって矛盾してるじゃないですか?リズはチャーリーを救いたい、病院に連れて行きたい、これ以上食べてほしくない。けどチャーリーにとっての最たる願いの為に、心を鬼にして毎日チャーリーに何人前だよってくらい大量のケンタッキーに巨大なブリトーを渡さなければならない。彼の死に自分も関与しているという自覚を持ちながら……彼女は毎日泣きそうになりながらチャーリーの面倒を見る。こんな辛さありますか?そのリズを見事に演じたホン・チャウが“助演女優賞”を獲らなかったのが不思議でならない。ちょっと今年のアカデミー賞は「エブエブ」に全部持っていかれた感が強いというか、いくらなんでも他の作品にももう少しスポットライトを当てる上でも評価を分散して欲しかったなーと。確かにジェイミー・リー・カーティスも素晴らしい女優さんですけど、いやあのキャラに比べたら助演はホン・チャウでも良かったんじゃないか?それくらい彼女の演技には心を打たれしまう。



でもこの映画が憎いのはさ、「彼が“死にかけているから”皆彼の元を訪れた」とも言えるという所。チャーリーは「人間の素晴らしさ」を我々に見せてくれた。ただそれはチャーリーがあくまで「死にかけ」ているからで、皆「善意」の気持ちで彼を救おうと動いているように見えているのは、目の前で死にかけている人に対して放っておけないという、ただ「本能」がそうさせているようにも一方で見れてしまうのです。先程とは真逆なことを言っているのは重々承知の上で、私はそれでも「人の素晴らしさ」の方に賭けたい……。

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