【原題】Woman of the Hour
【監督】アナ・ケンドリック
【出演】アナ・ケンドリック ダニエル・ゾヴァット トニー・ヘイルほか
【あらすじ】
1970年代のロサンゼルス。テレビ番組「ザ・デートゲーム」の出演者に選ばれた駆け出しの女優と連続殺人鬼。2人の運命が交差する様子が、実話を基に描かれる。(ネットフリックス公式サイトより)
【感想(ネタバレなし)】
『殺人鬼に優しい国』
どーもどーも夜勤明けから帰ってきて昼寝しようとしたら台所にいるGを発見して眠気も吹っ飛びましたラーチャえだまめです。本日はそんな夜も眠れぬ嫌悪感と恐怖心にただただ怯えて見ることしか出来ない
【アイズ・オン・ユー】…!!「ピッチ・パーフェクト」「ザ・コンサルタント」のアナ・ケンドリックが主演のほか“長編監督デビュー”も果たしたらしいコチラのネトフリ映画。売れない俳優志望の女性が?匿名の恋人候補者の中から将来の伴侶を見つける恋愛トークバラエティー的なのに出演したら?恋人候補者の一人が女性ばかりを狙う「連続殺人鬼」だっt……おいおい悪魔の次は殺人鬼かよ!!昔のTVショーヤバすぎだろぉ!!!これまた70年代を舞台にしたお茶の間に流れた“恐怖のリアルTVショー”……がメインかと思いきやそうではなくってアナ・ケンドリックが殺人鬼をボコボコに成敗する痛快エンタメでもない。アナ演じる俳優志望の“シェリル”が……まぁその殺人鬼から“怖い目”に遭わされるのだけれど、他にも“被害者”がいるわけでして、シェリルを軸とした本筋パートと殺人鬼がこれまで犯した“複数の殺人”パートをなんと交互に見せていく、時系列を行ったり来たりしながら非常に胸糞悪く恐ろしい物語が展開されていく、というのがちょっと意外な映画だったんですねぇ。
まずこの殺人鬼がキモい!!大柄のロン毛アタマで見取り……写真家のナリして「美しいキミを被写体にしたいんだ」などと独り身の女性に近づき“匠な落としテクニック”で女性を車に誘い込むと、そのまま日暮れ間近な誰も居ないグランドキャニオンみたいな岩場に連れていき、広大な大地のど真ん中で大胆不敵に犯行を犯す。顔はうーん……中の中くらいですか??にやり顔がとっても不気味な決してイケてるメンズではない、にもかからわずですよ??女性たちは騙されてしまう。そして複数の殺人を犯しているにもかからわず女性からは顔が見えない匿名性に目をつけたのか、己の内面性だけで勝負できる恋愛番組に出演し、カメラの前で堂々と顔をさらしながら己の「絶対的自信」を再確認するかの如く、これまたニヤリ顔でシェリルに「選ばれる」のを優々と待つ。
演じるは「ドント・ブリーズ」のドロンチョ一味から「イット・フォローズ」のヤリ◯ン野郎、かと思えば「ヴァチカンのエクソシスト」で暴君クロウ牧師の右腕として“前半全くの役立たずが後半メチャンコ頼りになるヴァチクソ展開”の火付け人ダニエル・ゾヴァット。この人なかなかカメレモンですね〜。イケてるメンズを長髪おでこデコデコにしたらこんなに“不審者”になれるのか!?否、彼の女性を見る“視線”、ココに恐怖心を植毛、あいや植え付けれらました。見た目、というか雰囲気モイキー。
これ現代のマッチングアプリの闇にも通じていないか?シェリルは日常生活にはびこる「女性はこうあるもの」という悪しき固定概念や女性を「性の対象」としか見ない「男尊女卑」な男性社会に疑問を抱きながらも、その中で生きていくしかないと自分に言い聞かせてきた。恋愛番組出演も全くの不本意だけど自分の名前を売る為のパフォーマンスになったらな、くらいの気持ちで出演したんですね。そんな彼女が番組内でも「自分の立場がない」ことを悟り、またカメラの前では自分はただの「道化」でしかないことに苛立ちを覚え、ついに司会進行を無視したり候補者の男たちにわざと意地悪な質問をして逆に男から笑いを取る、という男性司会者も面目丸つぶれなブラックバラエティに変えて会場を大いに沸かせる腕を見せる。
そんな知的で才能をもった彼女が「一番まとも」な男だと感じて最終的に選ぶのが「一番まともじゃない」殺人鬼という怖さ。人は見た目だけではないと言いますが逆に内面だけで判断するのもNGと言うことか!?
アナ・ケンドリックによる長編デビュー作は、そんな娯楽満載な“映画的マジック”も叶わぬ非常にジメッとして“現実的”なサスペンススリラーとなっている。そしてフェミニストである彼女が今作で描ききったのは社会にはびこる“男性優位”と、その社会に“届かぬ女性の「声」”。今作は70年代を舞台にしているが残念だがそれは現代にも通じるテーマでもある。殺人鬼の他にも本作に登場する男性陣は基本的にみんなク◯、という描かれ方で統一。しかしそれは決して誇張して描いてるわけではなく、リアルでもそうでしょ?と全く否定せずに描ききっている。
反面言いたいことはわかるよ?ただ殺人鬼一人に的を絞った方が、彼についてさらに根深く描けた点もまたしかり。要は殺人鬼に対する尺が足りないのよ。殺人鬼の他にも次々現れるフ〇ッキュー男子に次々噛みついては「これが男尊女卑なクソな世界ですよー!」っていちいち叫ばれてるような気がして色々詰め込み感は否めない。特にラストシーンで女性が「声をあげる」寸前のところで終わる、今作イチ見せたいシーンなんだろうなとは感じたが、その前で着地地点を見失った感も。
そして本作イチ恐ろしいのがこれが「実話」ということです。殺人鬼“ロドニー・アルカラ”は実在した人物で、彼が恋愛TV番組に出演したというのもなんと事実。
※こちらが実際の番組映像(3番目に登場するのが犯人)
79年に収容され8人の女性を殺害した容疑で死刑宣告を受けたが、被害者の数は130人以上にのぼるとも言われている。また71年に一度逮捕されたが証拠不十分で釈放されその後も犯行を繰り返していた、何たる鬼畜の所業。本作でもTV出演した彼が殺人鬼だと証言する女性が現れますが、TV関係者はおろか警察さえも彼女に聞く耳すら持ちません。本作はそんな女性ばかりを狙った殺人鬼を野放しにし続け、“殺人鬼の肩を持った”社会への痛烈な批判も込められているアンチテーゼ的映画、だと思いました。
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