【原題】Nope
【監督】ジョーダン・ピール
【出演】 ダニエル・カルーヤ キキ・パーマー スティーヴン・ユァンほか
【あらすじ】
田舎町で広大な敷地の牧場を経営し、生計を立てているヘイウッド家。ある日、長男OJが家業をサボって町に繰り出す妹エメラルドにうんざりしていたところ、突然空から異物が降り注いでくる。その謎の現象が止んだかと思うと、直前まで会話していた父親が息絶えていた。長男は、父親の不可解な死の直前に、雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを目撃したことを妹に明かす。兄妹はその飛行物体の存在を収めた動画を撮影すればネットでバズるはずだと、飛行物体の撮影に挑むが、そんな彼らに想像を絶する事態が待ち受けていた。(映画.COMより)
【感想(ネタバレなし)】
『THE「飼い犬に噛まれる」映画』
どーもどーもラーチャえだまめです。先日ある映画を友人と一緒に見に行くという約束をしていたのですが友人の予定が急に合わなくなり延期することに……え、次会えるの3週間後だって?ハハハ……ゴメンそれはちょっと流石に、3週間ネタバレに怯えながらIMAX上映もスルーして指を咥えて待つだなんて……タイトルからしてもう「NOPE(ムリ)」です__2回、2回見りゃいいよ!!友人とまたもう一回見に行けばなんの問題もなs……と言うわけで抜け駆けして一人で観に行ってしまったのです
【NOPE/ノープ】!!!いやだって「ジョーダンは映画だけにしておくれやす」のジョーダン・ピール監督の新作ですよ?コメディアンでありながらコメディとは無縁のホラー映画で衝撃的なデビューを果たした「ゲット・アウト」から始まったジョーダン伝説。続く2作目「アス」でも“これまでにない”独自性に翔んだ作品を展開、当然3作目となる今作「NOPE/ノープ」だって目が離せないわけで。お得意のホラー映画である、とだけ伝えられた我々は“意味不明な予告動画”で予測と期待を勝手に膨らませ、今度もきっと一筋縄ではいかないだろう、“人種差別”をまたテーマに入れてくるかも?……なんて想像したりしてね。でネタバレせずにお伝えしましょう、今作はズバリ「未知との遭遇」を題材にした
『シャマラン「サイン」の再来?』
どことなく作風が似ている気もする??「シックスセンス」のMナイトシャマランがかつて手掛けたメル・ギブソン史上最高額でキャスティングされた「サイン」。ある日農家の周りに突如ミステリーサークスが出現し「これは何かのメッセージなのか?」異星人?“ゴッド”?次第にメル・ギブソン演じる神を信じない牧師の宗教観、倫理観にコネクトしていくSFスリラー。いやー私あの映画が大好きでしてね、小学生の頃にドハマリして、小学生ですから難しいことなんて一切わかりませんただ一般人が撮影した“やたらリアルな異星人登場シーン”だけ何度も再生して……話が反れました今作「NOPE/ノープ」は、同じくスリラーテイストを得意とするジョーダン・ピールが“描きたかった「第4種接近遭遇」”映画であり、シャマランの「サイン」が好きな方、“受け入れられた”方には何も言うことなくオヌヌメ出来る、逆に言えば前2作同様、否今作はそれ以上に「激しく人を選ぶ」そんな映画だと思いました。
ハリウッドで活躍する馬を提供する古株の牧場でハリウッドで唯一の“黒人牧場主”であるOJと牧場経営はあくまで“副業”だと言い張るエメラルドの兄妹は、ある晩上空から影を落とす“謎の飛行物体”を目撃、“ソレ”は牧場からすぐ近くの丘の上に昼夜問わず“停滞”していることまで判明した。OJとエメラルドは目撃者が増えTVクルーや観光客が押し寄せる前に「ワレが目撃者第1号なりー!!」と“ソレ”を使って一儲けしようと目論むのだが……
もう本編130分。長すぎ。でもずーっと“長い長い緊迫感”を最後まで我々観客にもたらしめる、130分ずっと目を食い入るように観てしまいました。一瞬足りとも目が離せない、別に親の教えでもなんでもないのに。それだけ夢中にさせるのは、バラバラになったピースだけをはじめ見ているかのような「暴走するチンパンジー」「黒人と馬」そして「UFO」……それらの「?」が一体どう繋がりを見せるのか、ジョーダン・ピールの仕掛ける“伏線”に最高のワクワクを覚えてしまうから。ここまで観客を惹きつけるジョーダン・ピールの作家性の高さ、いややっぱり今作も凄いですね。まだ売れる、まだ売れるぞこの人は…!!
「ゲット・アウト」でも起用したダニエル・カルーヤの無口な兄OJの自然体すぎる演技に脱帽。少ないセリフの中に込める感情、目だけで魅せる演技、ぎこちない細かい性格まで感じとれる。“ただの牧場経営者の一人”を見事に演じています。反対に陽気な性格のキキ・パーマー演じる妹のエメラルドも、誰に対しても同じ陽気な態度で接する浅い味付けのキャラかと思ったら出会う人間によって“微妙に距離感(態度)を意図的に変えている”こちらも細かい芸の入れよう。兄OJの前ではより軽やかに、電気屋の青年の前では少し厳し目な態度を取る。主役2人の掴みはバッチリでしたね。
当然今作も“一筋縄ではいかない”ストーリー、「え、こんなシーンまで“深い意味”があるの?」なんていう、そのまんまの視点ではなくて毎回違う角度で見たり観客の教養の有無で内容を掴めたり掴めなかったりする。そして掴めなかった人にこの130分は非常に重くのしかかり「結局なんだったの」で終わってしまい極端に満足度を下げる要因になるやも。私もどちらかと言うと「わからない派」に属することが多い故、そうやって評価が下がるのは致し方がないと思うし、「“理解できないから”評価を落とすのは愚かだ」と鼻高々に「わかった派」を宣言し他人の頭一つ抜きん出ているアピールをしたがるマウント人間に対して「いや、それでも理解出来ないんだから面白いとは言えんのだよ」と“なぜ素直に映画と向き合えないのか”と逆に言いたくもなるのですが。。。
ただ今作は前2作に比べて“格段にエンタメ色の強い”映画で、Cノーランとタッグを組み「ダンケルク」でアカデミー撮影賞にノミネートされたホイテ・ヴァン・ホイテマ撮影監督によるIMAXカメラで撮影された「大画面&アイクオリティな画素のUFOを拝める」これだけで個人的には充分チケット代が報われたし、あの巨大で異様なスピードと劇場が揺れるほどの重音を発しながら我々の目の前に現れるUFO(未確認飛行“物体”)の圧倒的な存在感はフルスクリーンで体験してみてほしい。
【感想(ネタバレ)】
クリオネってことでいいね?
もう一体全体どんなメカニズムだよ!!スティーヴン・ユァン演じるジュープの被るカウボーイハットにそっくりだと思ったらラストで一反木綿になるし……(あの人工的な口のシステムは?)「AKIRA」のパ◯……オマージュしまくりのジョーダン・ピール監督のアニメヲタが露見した結果、もしかしてエヴァの第◯◯◯使徒が元ネタになっているとは考えられないだろうか…??(ほかにも電動バイクに乘ったヘルメット記者はバフとパンクですか?)ちなセルフオマージュと言うのも実は作中登場していて前作「アス」に登場した架空のファストフード店が今作にも登場していました(監督曰く自分の獲る作品の“世界線”は同じ模様)
その正体は我々の“人知を超えた”生き物すぎる馬や暴走したチンパンチーと同じ獰猛な「野生生物」____ここで先に言った「暴走するチンパンジー」「黒人と馬」に繋がるわけですよね……あれ黒人は?(それは後ほど)
一つずつ解説しましょう、まずは「暴走したチンパンジー」。かつてTVショーで人気者となった賢いチンパンジーが起こした惨劇。チンパンジーの握力って確かヤバいんですよね?あんなのに殴られたら確かにひとたまりもなさそう。でも実際どこかの国でこれと似たような事件が本当に起こったらしい。チンパンジーはこれまでずっと「ストレス」を溜めていて、それはスタジオに無数に設置されたカメラの“視線”にいつもさらされていたから。“見られる”ことにとても敏感でストレスを感じるのは人間だってそうですよね?仕事中上司にずっと後ろからPCを覗かれるあの居心地の悪さと言ったら……子役時代のジュープはそんな大惨事を生き延びた一人で、偶然机の下に隠れる、というチンパンジーの視界から“隠れた”ことで助かったわけです。
次に「馬」。OJたちが飼っている馬はハリウッドやテーマパークに出荷する馬、人々から“見られる”馬です。序盤でグリーンバックの前に馬がいます。CMか何かの撮影でしょうか、その馬もOJの管理化にあるとはいえ沢山の撮影クルーに囲まれ「ストレス」を感じていたのではないでしょうか。クルーの一人が馬に銀の玉を勝手に見せて興奮した馬が馬蹴りしてこちらもあわや大惨事になる所でした。
そして「UFO」。コイツもまた“生命体”として人並みの感情があったのかは定かではありませんが、ジュープの経営するテーマパークの“見世物”として実はOJたちが一儲けを考えるずっと前からジュープに目をつけられていた、テーマパークにやってきた客から“視線”を向けられストレスを感じていたんじゃなかろうか?そしてこの3つに共通するのは、そのストレスが限界に達したために人間を襲う、という点です。もっと言うと、襲われるのは“視線を向ける”者、“飼育”しようとする者、「管理しようとする者」に対してです。この「管理しようとする者」というのがミソというか、今作の根底にあるテーマで、そしてジョーダン・ピールが今作で批判の対象としている者、なんじゃないかと考えました。
これまで「ゲット・アウト」で“差別する者”を「アス」で“比較する者”を壮大に批判、皮肉ってきたジョーダン・ピール。今作では「野生生物を管理しようとする者の愚かさ」自然界に無謀な挑戦、いや喧嘩をふっかけた人間に対するアンチテーゼみたいなものを表現したかったんじゃないか。今やってる「ジュラシックワールド」と実は今作は瓜二つな作品だったわけなんですねー。小さい頃は偶然にも視線をそらしたことで命が助かったジュープですが、大人になってその“教訓”を学ぶことなく、結局かつてチンパンジーに殺された側の人間、「管理しようとする者」に成り果ててしまったのが本当に皮肉ですね。OJはUFOに襲われそうになった時に何度も下を向いてました。あれはOJがUFOが視線を向けることで襲ってくることをどこかで勘づいたからです。
あとは“見られる”ストレス、と言うとこれまでテーマにしてきた黒人への差別、“色物”として見られてきた有色人種だってストレスを感じて生きてきた、とも言いたいのかも?黒人と言うと、世界ではじめて撮影された動くフィルムの被写体は騎手だった、そしてその騎手は黒人だったという歴史。つまり世界ではじめて撮られた映画の主役は黒人だったわけです。けどその事実はあまり知られていないし、その黒人騎手の名前も知られていないのもまた事実。なぜか?という純粋な問題をつきつけ、普段“視線を向けて”いるのに、なぜその事実歴史に対しては“目を向けたがらないのか?”今でこそ有色人種を主役にした映画が量産されておりますが、実はハリウッドで“映画”が誕生した瞬間から黒人がメインの映画は生まれていた、ただそのことを歴史の教科書にすら載せない、それはつまり黒人をハリウッドに立たせたくないという白人至上主義の圧力があったからではないか?という問題を突きつけている、そんなようにも見えました。
そんな数々の予告動画で“謎”とされていたシーン、一瞬ETとグーパンしているように見えたのはチンパンジーの手だったりゼイリブの異星人に見えた人物はチンパンジーにタコ殴りにされ顔が変形してしまった被害者だったなどなど……蓋を開ければ思ったほど謎ではなかったかな、と思いましたね。というかどうもそれらのカットが「思わせぶりな予告編」を作るためだけに用意したような、そんな感じがしてしまいました。別に不必要なシーンだったわけではないけれど、予告動画を観た観客をややこしくするために作用しているというか。でも結果的にそれを見て興味を引き立てられた一人でもある私という……。ちなみにその予告で(日本版にはないかも?)登場している男が劇中丸々カットされていたらしい。“ノーバディ”とファンの間で呼ばれるその男。予告動画では逃げ惑う群衆の中ただ一人UFOに近寄っていくシーンが入っていました。この一切存在が謎な男について公開後のインタビューでジョーダン・ピール監督は「物語をまだ語り尽くしていない」と何やら意味深な発言をしたらしいのです!これが今作の続編&この謎の男のスピンオフ企画が実はあるんじゃないのか?と今ネットをざわつかせているんですねー。まぁDVDの特典映像にただ入れるだけかもしれませんが
ラストOJの姿は現実か幻か……どちらとも解釈がとれるようなENDでしたね。でもあれは……死んでるっしょう?エメラルドの表情とか霧の中からうっすらシルエットから登場する感じがなんか精気を感じない……
この映画を見て「飼い犬に噛まれる」とはまさにこのことだな……そんなことを思い知らされた1本かもしれません。
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